詩集「セカンドムーヴメント」

緋熊熊五郎の詩作ペンネーム、緋熊加微由の詩集

幻想に揺蕩う眠り姫


「幻想に揺蕩う眠り姫」

時の流れを遡って

流れ着いた眠り姫

ふわり柔らかな髪が揺れ

豊かな胸が静かに

上下しているけど

肩を揺さぶっても

その瞼は開かない

時折、にやりと笑っては

何やら異言を呟いている

どんな夢か幻想か

分かる術がないけれど

仲間に入れて欲しいな

(opus118)

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#幻想に揺蕩う眠り姫

粉雪(六肢版)


「粉雪(六肢版)」

自重に耐えられず

俺は雲から滑り堕ちる

大勢の野郎たちとよー

六枚の羽根を拡げ

風に捕まり流されてく

満月を漬けた海を越え

星が打ち当たった山も越えて

ずーっとさらーっと舞う

やっと見っけた君の赤い頬っぺに

必死にしがみついたら

君の心に俺は住みたい

(opus114)

一歩


「一歩」

さあ勇気を出して

前へ一歩踏み出そう

新しい世界を征服しよう

緑なす草原

軽やかな音を立てるせせらぎ

聳え立つ巨木

屹立する峰々

青空を流れる絹雲

嘘、嘘

ほんとは勇気なんて全然いらない

ただ一歩ずつ足を前に出すだけ

それだけでいいんだ

(opus113)


「鍋」

とても寒くなってきたから

今日はお鍋、言の葉を煮る

初め強火、煮立ったら中火

浮き上がるアクを取り除いて

ぐつぐつことこと

無駄な脂も取り除いて

ぐつぐつことこと

言の葉に味付けが染み込んだら

皿に盛り付けてさぁ召し上がれ

(opus112)


粉雪


「粉雪」

自らの重さに耐えかねて

僕は雲から飛び降りる

たくさんの仲間たちとともに

六本の羽根を拡げて

風を捕まえては流れていく

満月を浮かべた海を越え

星が降る山をも越えて

どこまでもさらさらと舞う

やっと見つけた君の赤い頬に

必死にしがみつくと

君の心に僕は溶けたい

(opus111)

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#満月を海に浮かべて


なぜ


「なぜ」

君は僕にどこが好きかと言うけれど

僕は絶対教えないよ

なぜならまた魔法をかけられてしまうから

透明な檻に閉じ込められてしまうから

そうなると身体が火照って熱くなり

四六時中君のことしか考えられなくなるんだ

だから気のない振りをしたり

時々わざと君を怒らせるよ

君がもじもじはにかんだら

僕は心臓をつかまれて破滅してしまうんだ

(opus110)

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#優しい言の葉 「なぜ」


アクアマリン


「アクアマリン」

あの海の水のように

君は無色透明で

笑顔がとても爽やかだけど

あの海の水のように

遠くから見ると濃い青い色なんだ

深く澄んだ感情を心の底に湛えて

辛いこと悲しいことがあれば

僕の心を優しく包んでくれるんだ

僕は君の揺り籠の中で溶け

そして心と心が混じり合うんだ

(opus109)

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#優しい言の葉 「青い」



「雪」

今宵、あなたの心に一滴の涙を

どうして素直になれなかったのだろう

あの時、意地を張ってしまったのだろう

駆け引き、それとも意地悪

重ねれば重ねるほど距離ができて

それでも必ず理解してもらえると

頑なに信じ切っていた

そんな夢のようなことがあるわけないよね

君の薬指に光るものを見つけて

愚かな自分に初めて後悔した

月は同情して涙を流してくれたが

闇の中、天窓から音もなく舞い降りたのは

凍てついた六角板状の結晶

私の心に触れては溶ける

今宵、あなたの心に一滴の涙を

(opus108)

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#詩人の本懐 「天窓」


出会い


「出会い」

あの人に出会ったのは

あなたが素敵になるため

そしてあなたから離れていくのは

新しい人と出会って

あなたがさらに素敵になるため

だから悲しまないで

笑顔を見せてね

(opus107)

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#仄かに色付く言の葉 「笑顔の裏側」


人生


「人生」

君の人生はどんな人生だったの

勉強をして試験を受けて

部活をして趣味のこともして

そして切ない恋もしたよね

時には心が涙で曇ったけれど

雨が止んで虹がかかることもあったよね

二人で何も言わずに夜空を見上げて

流れ星をずっと探したこともあったよね

これから何が待ち構えているのだろう

でも忘れないで、ポケットの中には

あの時の虹の欠片、星の欠片が

ぎっしり詰まっていることを

(opus105)

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#甘い言の葉 「虹の欠片」


朧月(その2)


「朧月(その2)」

あの日、君は偽りの言葉で

僕の心を傷つけた

鼓膜は聞きたくないと悲鳴をあげた

朧月の夜、触れた指先に

温もりを感じた日はどこに消えたのか

交わした愛の囁きは幻だったのか

今も心に残る小さな傷痕

朧月を見上げる度に疼くんだ

(opus104)

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#優しい言の葉 「偽」

#仄かに色付く言の葉 「触れた指先」

「温もりを感じた日」「小さな傷痕」

#詩人の本懐 「鼓膜」